男というものはとかく何かにハマりがちな生き物だと思う。
子供の頃はスポーツやマンガ、大人になってからは時計であったり洋服であったり、はたまたDIYやバイクなどなど……男が情熱を注げざるを得ないやっかいなアイテムというのは世の中にたくさん存在する。
私の場合は革靴だ。ちょっと珍しいかもしれないが、実は非常に奥深い世界だったりする。
熟練の職人の手で数百もの工程を経て作られる革靴は見ているだけでも美しい。じっくり眺めるとあらゆる細部に職人技が光っており、もはや工芸品といっても過言ではない。
どんなシーンでも活躍する黒い革靴や、カジュアルシーンのドレスアップに最適なブラウンの革靴、いわゆる最初から履き込んだ味を楽しめるアンティーク仕上げに、起毛素材を使った柔らかな足あたりが特徴のスエードブーツなどなど……数多くの素材、そしてデザインがあるのも魅力のひとつだ。
さて、革靴もとい紳士靴(あるいはビジネスシューズ)といえば歩きづらさやその履き心地の悪さを挙げる人がいるが、単純にそう思い浮かべるのは大きな間違いだと主張したい。
セールで投げ売りされているような革靴ではなく、歴史と伝統を併せ持った素晴らしいシューメーカーが作った靴を選び、さらにシューフィッターによって選ばれた適切なサイズの革靴をぜひ試してみてほしい。
その驚くべくフィット感に加え、歩くことの楽しさ、そしてピタリと足にあった革靴の美しさに感動の溜息が漏れること間違いなしだからだ。
数十年、あるいは百年以上の歴史を持つシューメーカーが作った素晴らしい革靴がピタリと自分の足にハマってしまったときは、すぐにでも背筋を伸ばして歩きたくなるような気持ちにさせてくれる。
さて、私がとくにオススメしたいのはグッドイヤーウェルト製法でつくられた革靴だ。
革靴の製法としてはもっとも有名もので、1800年代後半にアメリカで生まれたとされている。インソールレザー(中底)とアウトソール(靴底)の間にはリブと呼ばれる部材で囲われたコルクが入っており、履けば履くほどにこのコルクが持ち主の足の形状に馴染むことで、最終的にはオーダーメイドのようにピッタリなインソールが出来上がる仕組みとなっている。
さらにこのグッドイヤーウェルト製法はアウトソールの交換を前提とした製法なので、アッパーレザーがダメになるまでは何度も靴底を交換できるのが特徴だ。履き込んで薄くなった靴底はどんな天候でも履きやすいと評判のダイナイトソールに変更するなど、後から楽しめるカスタマイズ性もある。
しかし、所詮は革で作られた工芸品。使えば使うほど各部材は消耗し見た目も悪くなる。そこで登場するのが靴磨きというものだ。カタカナで表すとポリッシングやシューケアなんて言葉があたるのだが、ここで伝えたいのは革靴は買って終わりの世界ではなく、「歩くこと」と「磨くこと」の両輪が必要となる道具ということだ。
素晴らしい歩行感を楽しんだら、靴の状態を確認した上で適切なケアを施す。革靴はさまざまなモノのなかでも最もお手入れのしがいがある道具だということは、いわゆる革靴マニアの間では常識となっている。
グッドイヤーウェルト製法に限らず、本格的な製法でつくられた革靴は磨けば磨くほど重厚に光る上質なレザーが当然のごとく使われているのはもちろん、つま先や踵に靴用のワックスを重ねてまさに鏡のように光らせるテクニックであったり、あるいは元々の色に少し暗い色の靴クリームを使うことで履き込んだような味を出す技術などもある。
こういった手入れと日々の使用を重ねるとどうだろう。玄関にはまさに相棒と呼べる素晴らしい一足が鎮座することになるだろう。
もし、足元にそんな相棒がほしいと思ったなら、ぜひ「グッドイヤーウェルト製法のちょっと良い革靴」に手を出してみてほしい。その中でも初心者にはMade in Englandと記載されているイギリスのシューメーカーのものを私はオススメしたい。革靴はイタリア製も有名ではあるが英国製は基本的に質実剛健なつくりのものが多く、あなたの足元を長くそしてエレガントに支えてくれるに違いないからだ。
もちろんシューメーカーや使われる部材、それにデザインで価格は変わる。個人的には手の出せる範囲の一歩上あたりが良いと思う。是が非でも長く付き合う気持ちになれるはず(笑)
最後となるが、素晴らしい革靴は手に入れたときがゴールではないということを改めて強調しておきたい。1年、2年と共に時を歩むことで本当の価値が見えてくる。そんな至高の1足をぜひ手に入れてみてはいかがだろうか。
(1足が数足以上に増えることもあるが、筆者はそこの責任は一切取らないので悪しからず)